今日はソラに冷たくし過ぎた、俺のつまらないやきもちで今日はずっと大好きなソラの笑顔を見ていない。
今夜は男リクの脱童貞という一世一代のイベントなのにこのままじゃいけないだろ!
ソラの掃除を手伝う振りしてさりげなく仲直りしよう。
人気の無い夕方の校舎のトイレで二人きりなんてシュチュエーションそうそう味わえるものじゃない。
手伝いに来た俺に喜ぶソラの顔を思い浮かべて一人でにやにやしながら北校舎一階のトイレに向かった。
トイレの入り口付近に来るとやたら静かでとても掃除中の雰囲気ではない。
ソラのやつ、まさかサボったのか?
居眠りはするけれどあの真面目なソラがさぼるとも思えない。
不審に思って中を覗いてみると、俺の目にまさかの衝撃な光景が飛び込んできた。
「っ?!!」
な、何だこれはっっ?!!!
俺のソラが俺でさえ見た事のないエロい顔してパンツ一枚で上半身裸の男と抱き合っている。
俺は頭がおかしくなったのか?
エロい事には無縁そうなソラがこんな卑猥な事してるなんて理解出来なくて、怒りよりも先に疑問を抱えてしまうのは幼なじみ故の固定観念のせいだろうか。
しかし目が合ったソラの顔が瞬時に気まずい表情に変わったので、俺の中の疑問は一瞬でこの上無い怒りに変わった。
「ソラぁっ!!」
気が付いたら自分でも驚く程の大声を上げていた。
こんなのクールな俺のイメージじゃないけどそんなことには構っていられない。
俺の声に大した動揺もせずに振り返った男はよりによって前から気に入らないあのヨシュアって奴だ。
そいつは俺を振り返ると馬鹿にしたように笑みを浮かべ、腕組みして壁にもたれ掛かった。
それとは対称的にソラは泣きそうな顔をして慌てて床に落ちていた制服のズボンを履いている。
どうせヨシュアがソラを挑発して無知なソラが流されたんだろう。
ソラは純粋が故にまだ欲望を抑える事を余り知らない、そんなの昔からずっと一緒にいた俺が一番良く知っている。
「こっちに来い、ソラ」
ソラを呼びつけると怯えながら俺の元にやってきた。
こいつを怒っても仕方ない、けれどこの怒りは簡単には収まらなくて取り敢えずはソラを強く抱き締める事で発散させた。
しかしソラは謝りながらも何故かあいつを庇う言葉を発している。
嘘でもいいから自分にその気は無かったくらい言えないのか、頼むからこれ以上俺を傷付けないでくれ!
そんな事を思いながら元凶の憎い奴を睨むと呑気に携帯なんかいじってやがる。
ムカついた俺は怒りに任せてソラを手放すと飄々とした態度のそいつの腕を思い切り掴んでいた。
「おい!!」
「何?…腕、痛いんだけど」
俺きっと凄い剣幕してるはずなのにこいつは全く動じてない。
本当に何を考えてるのか全く分からない。
「俺のソラに何て事するんだ!!!ソラは俺のものだ!!」
「…僕、人の事を物扱いする人って嫌いだね。ソラ君の意志は誰の物でもないよ」
「なっ…!!」
冷静で挙げ足取るような態度、こういう時熱上げてる方が確実に負けるんだけど駄目だ、ソラにあんな事をされて冷静になれる訳ない。
「大体君達付き合ってるのかい?」
「当たり前だ!」
「ふうん、その割には欲求不満そうだよ、君の恋人。何でセックスしないの?」
「っ//?!」
何でこいつが俺達の事情なんか知ってるんだよ、そんなことよりもソラがいる前で何て事言い出すんだ、とんだデリカシーの無い奴。
ソラの前で下ネタなんて俺にとっては禁句そのものだ。
テレビのキスシーンでさえお互いを意識し過ぎて無言になるのにましてや俺達のセックスなんて連想させるな!
「ねえ、何でなんだい?本当に好きなの?」
「っそれは…」
好き過ぎて大切過ぎて指一本触れる勇気のない俺の繊細な心がこんな神経図太いやつに分かる筈がない。
幼馴染みの一線を越えるのは怖いんだ、越えたら長年のこの関係がどうなるか実は考えただけで不安で夜も眠れないなんてとても言えない。
俺が言葉を詰まらせていたら俺達の側で気まずそうにしていたソラが突然どこかへ走って行った。
「ソラっ?!」
「あーあ、傷付けちゃったね。フフ、ソラ君可哀想。」
俺はソラを傷付けたのか?
訳が分からないけど全て目の前にいるこいつのせいだ。
一発殴りたいところだけど優先順位は勿論ソラ。
軽く舌打ちして睨むだけで我慢して、床に落ちてるソラのびしょ濡れのシャツを拾って全力で追いかけた。
「ソラっ、ソラ!どうしたんだよ!そんな格好でいたら風邪引くぞ!」
「うるさいっ…追いかけて来るなっ!」
脚力はソラよりも自信ある、筈なのにソラのズボンから滴る水滴が廊下の床の滑りを良くして、頭に血が昇っていた俺は見事に足を滑らせた。
「うわぁっ!!」
運動神経抜群な筈なのに動揺しまくりの俺は咄嗟に手を出すことも忘れて、派手な音と共に真っ先に顔から転けていた。
「っ?!リク!」
「っ…痛てぇ…」
優しいソラは俺を心配して戻って来てくれた。
こんな情けない姿見られたくなかったけど戻って来てくれてちょっと嬉しい、いや、凄く嬉しい。
「立てるか?」
心配そうに手を伸ばしてくるソラ、本当にソラは優しい。
「ああ、ちょっとつまずいただけだ。」
「その割には鼻血出てるぞ?」
ソラはそこら辺にあった布の様なもので優しく俺の顔を拭いてくれた。
こんなソラを悲しい顔にさせて俺は一体何をやってるんだ。
ソラを早く俺だけの物にしたい、もう誰にも触らせたくない、俺の顔を拭いている物が廊下に落ちていた真っ黒になった雑巾でも俺はソラが死ぬほど好きだ!
そんな気持ちが胸一杯に込み上げて来て俺は衝動的にソラを抱き締めていた。
「ちょっ…リク//」
さっきの怒り任せの抱擁はさておき、こんな風にソラを抱き締めた事ははっきり言って無い。
ソラに触れたら自分がどうなってしまうか怖くて今までとても手が出せなかった。
改めて抱き締めたソラの感触は想像よりもちょっと固いけど、まあ光の勇者やっていたんだから当然だろう。
髪のシャンプーの匂いに汗の匂いが混ざってとてもソラを近くに感じた。
ソラの匂いがする、こんなの嗅いだら長年抑えてきた理性がっ…
幸いこの校舎は人が滅多に来ない。
夕方の弱い太陽の光は北側の校舎には殆んど届かず、廊下はオレンジ混じりの薄暗い色でロマンチックに演出されている。
夜までなんてとても待っていられない。
さっき覚えた強い嫉妬と盛り上がったソラへの気持ちに任せて俺はソラの顔を両手で掴み、有無を言わさずその唇に初めてのキスをした。 
悔しいけど俺にこんなきっかけを与えてくれたヨシュアにはちょっとだけ感謝せざるをえない。




「っ?!」
なっ、何だよこれ?!
俺今リクとキスしてる?!
突然の出来事についていけなくて折角のファーストキスなのに俺はキスを堪能するどころか他事ばかり考えていた。
さっきヨシュアの問い掛けに言葉を詰まらせたリクに本気で傷付いて逃げ出した俺。
リクが追いかけて来てくれて正直嬉しかった。
でもこいつ鈍感だから何で俺が怒ったのか理解してないから皮肉を込めて雑巾で鼻血拭いてやったら、今に至る。
何だか良く分からないけれどようやく俺に触れてくれる気になったんだな、リク!
嬉しくなって俺もリクの背中に腕を回したらそのまま冷たい床に押し倒された。
肌に直接床の冷たさが沁みるけど、リクの唇から伝わる熱さですぐに体は火照っていった。
リクは静かに俺から顔を離すとまだ少し鼻血垂らしながら熱っぽいキラキラした瞳で俺を見詰めた。
夕暮れのオレンジ色の光がリクの銀髪を透かして凄く綺麗だった。
「ソラ…」
リクは溜め息混じりに俺の名前を呼ぶと再びその唇を押し当ててくる。
今度は舌まで入ってきて、どうしていいのか分からなくて俺はただ口を開けて好きにさせていた。
リク、リク…嬉しいよ!リクが大好きだ!
心臓が有り得ないくらいにドキドキして静かなこの廊下に響いてしまうんじゃないかなんていらない心配をしてしまう。
そんな俺の胸をいきなりリクが触って来るから余計に心拍数が上がって死にそうになった。
そう言えばさっきからずっと息の仕方が分からなくて呼吸を止めていたからほんとに俺死んじゃいそうなんだけど。
口は開きっぱなしで顎が痛いしキスって案外難しい。
「う〜っ!」
本気で呼吸困難に陥って全力でリクの背中を叩いた。
様子を察したリクはようやく俺の唇を解放する。
ぜーぜー言いながら酸素を取り入れているとさっきまで情熱的でかっこ良かったリクの目が血走っているのに気が付いた。
「ソラっ…ソラぁっ!」
「り、リク?!ちょっ…んっ!」
リクは性急に俺の首筋に噛み付く様なキスをする。
ついでにズボンの上から股間まで触ってくるから急にリクが怖くなった。
あの屋上でネクとヨシュアがしてた事をまさか今ここでする気か?!
「リクっ、リク!ここっ、廊下っ…学校だろっ?」
俺は迫り来るリクの顔を押し退けて必死でリクを落ち着かせた。
「じゃあ家ならいいんだなっ!!」
ハァハァしながら何故かキレ気味でリクが言う。
なんか怖いよリク、でもこんな余裕無さそうなリク見たこと無い、俺に余裕無いリクがちょっと嬉しいのは内緒にしておこう。
俺が首を縦に降るとリクはちょっと笑ってまた俺にキスをした。
リクとの初めてのキスは雑巾と血の匂いが入り交じって正直気持ちいいものじゃなかったけど、
これから雑巾絞る度にこの甘くて切ないようなドキドキを思い出すのかと思うとちょっと笑えてしまうのだった。

「おい。」
リクとキスしていたら急に低い声がしてリクの肩越しに俺達を見下ろす人影が立っていた。
「うわっ!」
まさか見られてるなんて思わなくて慌ててリクを押し退けた。
「掃除サボってこんなところで何やってんだぁ?ったく最近のガキはませてんなぁ」
そこには笑ってるけど目は座ってる羽狛の姿があった。
うわぁ、気まずい、しかも怖い!
「すいません…俺、続きやって来るよ。」
「ソラ、俺も手伝ってやるよ。」
リクも同じく気まずそうだ。
どこから見られてたんだろう、恥ずかしい事極まりない。
「もうヨシュアが終わらせたぞ、後でお礼言っとくんだな。ったくそーゆう事は家でやれ!じゃあなぁ〜真っ直ぐ帰れよ!」
「えっ?あ、はい…」
羽狛はこんな俺に呆れた顔をして去って行った。
あのヨシュアが一人でトイレ掃除だなんてちょっと信じられない。
案外いいやつなのかもな。
「ヨシュアにお礼言わないと…」
「?!何でそうなるんだ!まさかソラ、あいつに惚れたんじゃないだろうな!」
ヨシュアって名前に反応してリクが凄い剣幕になる。
確かにあんな事あって怒るのも分かるけど、別にヨシュアが悪い訳じゃないんだよな。
「違うって、俺ヨシュアに水かけちゃって、只でさえ迷惑掛けたのに…」
「あんな事までされて何言ってるんだ!迷惑かけられたのはソラだろ?!お前はどこまでお人好しなんだよ!」
「迷惑って…でも、逃げなかった俺だって悪いんだし…」
あれは途中から合意だったし俺はヨシュアの事を責められる立場じゃない、けれどリクは何を勘違いしているのかますます不機嫌な顔をした。
「じゃああのまま俺が来なかったらあいつと何かしてたって言うのか?!お前いつからそんな淫乱になったんだよ!!」
「いっ、淫乱?!」
…ってどういう意味なんだろう。
でも何か悪い意味って言うのは想像つく。
「リクの分からず屋っ!!そんな心狭いから闇に飲まれるんだよっ!もうリクなんか知らない!!」
「なっ!!か、勝手にしろっ!!あいつと仲良くでも何でもしてろよ!!」
リクは最悪な事を叫んで一人で帰ってしまった。
ムカついた俺は反対方向のトイレに向かう。
当然そこにはヨシュアの姿も無くて、諦めて教室に戻った。
外はもう殆んど暗くて、誰もいない教室は俺を寂しい気持ちにさせる。
一人で帰るなんて初めてだし、何でやっとキスする仲になったのに喧嘩なんかしなきゃいけないんだよ。
机に座って持ち主の居ないリクの机を見詰めた。
この喧嘩は確かにあんな事してた俺が悪いんだけど、リクへの揺るぎない気持ちは確かだし、信じてくれてもいいのに。
どんどん暗くなる外を見ながら闇に飲まれるっていうのは言い過ぎたと反省した。
唇からはまだ微かに雑巾の匂いがする。
ついさっきまでここにリクの唇が当たってた、なんて思いながら唇を触っていたら悔しいけどあいつに会いたくて堪らなくなった。
リク、リクの馬鹿!何であんな事した後に急にキレるんだよ。
そんな事を考えてたら何だか涙が出てきた。
今日は朝から色んな事がありすぎた。
この先こんな風に嫉妬まがいの喧嘩が絶えないって言うなら俺達前の幼馴染みのままの方がいいのかもしれない。
そんな事を考えながら机に顔を伏せていたらいつの間にか眠っていたらしい。
「ソラ?寝てるのか?」
誰かに肩を揺すられて目を開けるとそこにはネクの姿があった。
教室は蛍光灯の光で明るくなっていて外はもう真っ暗だ。
「ネク?ん…おはよう」
「こんな時間まで何やってんだよ。」
「ネクこそ…」
目が覚めると俺は大きなくしゃみをした。
何だか身体中がだるくて寒気がする。
「大丈夫か?うわ、顔熱いぞ?服も濡れてるじゃないか!」
俺の額に手を当ててネクが心配そうな顔をする。
そういえばびしょ濡れの制服着たままだった、風邪引いて当然かもしれない。
ネクに言われてジャージに着替えていたらもう時計は7時を回っていた。
「どうしよう、もう船の時間間に合わない…」
あんなクソ田舎の島だから船の最終は8時、港までは一時間ちょっと、こんな時田舎育ちなのがどうしようもなく嫌になる。
「家遠いんだな。」
「うん、最悪だぁ…」
お金も余り持って無いし今夜どうしようか考えていたら熱に絆されて頭がくらくらし始めた。
風邪も酷そうだしリクはとっくに帰ってるしもう本当に今日はついてないよ。






続く