エレベーターに乗った瞬間俺の中で何かの糸が切れた様に大声で泣いた。 中途半端な決心でヨシュアもあの人も傷付けて、結局自分も傷ついて情けなくて泣けてくる。 それでもあの人の為にもヨシュアとちゃんと話し合って更生させる事が出来ればきっと皆救われる。 こんな俺の為にこんな大金... 彼の為にも早く仕事を辞めて真っ当なバイトでもしていつか全額返そう。 彼に貰った指輪を左手の薬指にはめようとして、右手の中指に付け替えた。 この指にはめる資格は俺には無い。 ここはいつか俺にとって本当に大切な人、出来ればヨシュアの為にとっておこう... 当面の目標は決まっている、何時までも泣いてばかりいないで部屋についたらすぐにあいつに電話してやろう。 エレベーターが止まり廊下に出ると俺の部屋の前に人影がうずくまっていた。 既に薄暗かったから影だけしか確認出来ないけれど人影は座り込んだまま動かない。 一瞬焦ったけど直ぐにピンと来た俺は急いでその人影に歩み寄った。 「ヨシュア!!」 「あ...ネクくん...」 力無い声で顔を上げたのはやっぱりヨシュアだった。 何だか顔色が悪くて目の下に薄いクマが出来ている。 「何やってんだ!こんなとこで!いつから居たんだよ?!」 「ご、ごめん...気持ち悪いでしょ、僕。フフ、ストーカーみたいだね」 ヨシュアに触れるとすっかり冷たくなっている。 そう言えば今日は風も強くて肌寒かったっけ。 こんなに冷えて一体いつから居たんだろうか。 俺が家を出たのが昼過ぎだったから... 「いつから居たんだよ?」 「ん、3時くらいかなぁ...ネク君、どこ行ってたの?」 「べ、別に...ちょっと買い物、とにかく早く中に入れ!風邪引くぞ!」 彼と会ってたなんて何だか今は言いづらい。 俺は鍵を開けるとヨシュアの冷たい腕を掴んで部屋に引きずり込んだ。 「入ってもいいのかい?」 「当然だろ!とにかく風呂入れよ、寒いだろ?」 ヨシュアは散々泣いたであろう腫れた目をしながら少しだけ嬉しそうに微笑んだ。 俺は急いで浴室に湯を溜めてヨシュアに入るよう促した。 ヨシュアが風呂に入っている間、店を辞める事や彼にお金を借りた事をどう説明しようかずっと考えた。 やっぱり反対されるだろうか、ヨシュアは彼を良く思っていないみたいだし。 それでも上手く誤魔化す方法なんて俺の頭じゃとても思いつかなくて取り敢えず二人分のカップめんにお湯を注いだ。 そうこうしているうちに温まって頬がピンク色に染まったヨシュアが風呂から出てきた。 塗れた髪に腰にタオル一枚巻いている。 「あ、なんか着替え探さないとな///」 その姿があんまり色っぽかったから何となく目が合わせられなくて慌てて適当な着替えを探した。 ドラッグやっててもヨシュアの肌はやっぱり透き通るような白で注射の跡どころか傷一つ見当たらない。 「いいよ、ネクくん」 するとクローゼットを漁っていた俺を背中から暖かいヨシュアが抱きしめてきた。 「ちょ///ヨシュアっ///きがえ...」 足元にヨシュアが巻いていたタオルが落ちて多分今俺は全裸のヨシュアに抱きしめられている。 急に体が緊張して言う事を聞かなくなってしまった。 「嬉しいよ、ネクくん。僕の嫌いになってないの?」 耳元で落ち着いたヨシュアの声がしてぞくぞくして変な気持ちになった。 「...///分からない...///」 本当にどうしていいのか分からなくてそれだけ答えると体を反転させられて唇を塞がれた。 ヨシュアの手は俺の上着の中に入って来て胸を撫で回している。 たまに乳首を引っ掻く様に触られてそこから生まれる小さな疼きでますます変な気分になってしまう。 「ぁ...///」 俺の唇を解放すると今度は耳の中を舐められて背筋が反り返るほどぞくぞくする。 ヨシュアの手はいつの間にか俺のベルトを外していてその中にも火照ったヨシュア手が進入してくる。 「やめろってぇ///...ちょ...いまは、駄目だっ///」 話、話しなきゃ!何流されてんだよ俺っ/// それでもヨシュアの巧みな愛撫によって俺の体は完全に脳とは切り離されていく。 駄目だと思っていても下半身は既にその気にさせられていた。 ヨシュアの手は俺の陰茎に絡みついてやっぱり驚くくらい上手く愛撫する。 「あっ...や、め...」 「僕の事が嫌いになったなら逃げていいんだよ?僕はネク君が好きだからセックスしたいよ」 何だかとてつもなく我が侭な事を言われているような気もするが、もう考える力は残っていなかった。 俺が抵抗しないと分かるとヨシュアは俺のハーフパンツを脚から抜き取り、近くのソファーに俺を押し倒した。 露わになった俺の性器を.にヨシュアの口が触れてフェラチオされる。 「んっ!...あっ、ヨシュアっ!」 前にも経験したけれどヨシュアの舌業は半端ない。 一瞬で俺は天国に行ってしまった。 「あっ///!!...ご、ごめ///」 イくって言う間も無く俺はヨシュアの口の中に射精した。 「いいんだよ、早いネク君も好きなんだよ?かわいい...」 歯の浮く様な台詞を言われて自分の顔が凄く火照っていくのが分かった。 あ〜もう、こんな事してるより話、話するんだろ!? そう自分に言い聞かせてもヨシュアの切なくて弱々しい笑顔を見ると口からは甘いため息しか出て来なかった。 ヨシュアの行為は当然止まらず俺の両膝を持ち上げて腰を浮かせると、自分の指をぴちゃぴちゃと舐め始めた、 もう何をされるか分かってしまった俺は恥かしくて思わず両腕で顔を隠した。 取り敢えずここは大人しくヤられておかないとまともに話も出来ないだろう。 ヨシュアが満足してスッキリしてくれるまで俺は大人しくする覚悟を決めた。 でも本当は俺もちょっとしたかったんだ.../// 「う...あ///」 ヨシュアの指が性急に俺の中に入って来て中をまさぐっていく。 俺の感じる場所を速攻で探し当てたヨシュアは執拗にそこばかりを攻めた。 「あっ,,,うぁ///」 気持ちよすぎて浮いている膝がぷるぷると震える。 どうにかして快感をやり過ごしたいけれどここには掴むシーツもない。 仕方ないから手の甲に噛み付いて強すぎる刺激をやり過ごした。 ヨシュアは俺の中を丁寧に解していく。 あまり痛みを感じさせないのは流石だと思った。 もう指が何本入っているのかもよく分からなくてただただ快楽のみを与え続けられていく。 すると指が一気に引き抜かれてその摩擦すらも今の俺には愛撫に変わっていく。 「ねぇ、ネクくんに入れていい?」 また来たっ///!!何で一々聞くんだよっ/// ヨシュアはなぜか挿入する時に一々断りを入れる。 良くなければ普通ここまでしないだろっ/// 俺が黙っているとヨシュアは濡れた入り口に何度も亀頭を押し当ててくる。 俺がいいと言えば二人でしている気になるのかな。 「ねぇ、ネクくん、いい?入れちゃうよ?それとも逆にする?」 「はぁ?」 急にヨシュアが訳の分からない事を言い出すので思わず間抜けな声が出た。 「僕に入れてもいいんだよ?僕ネクくんなら、いいよ?」 「ばっ///馬鹿!!!さっさとしろって///」 俺がヨシュアにするなんて///!!!めちゃくちゃ興味あるけどまだそんな自信無いし恥かしくて無理だ///!! 「いいの?...良かった...」 ヨシュアは安心したのかまた力なく微笑むと先端をゆっくり俺の中に埋めていった。 俺が嫌々やってると思ってたのだろうか、技術ばかり持っていると相手が流されているんじゃないか心配なのかもしれない。 そんなヨシュアが少し可哀相になり俺はヨシュアの背中に腕を回して積極的に体を開いていった。 「ネクくん...」 ヨシュアは顔を覆っていた俺の手を取ると両手に指を絡めて恋人同士みたいに手を握った。 その行為は簡単なものだけどとてつもなく俺の心に優しく響いてヨシュアと本当に一つになれた様な気がした。 乙女みたいで恥かしかったけど胸がきゅんと高鳴ってヨシュアが好きだという気持ちで一杯になった。 「ネクくん、ネクくん、ごめんね?だいすき」 そう言いながらヨシュアは俺の中をぐちゃぐちゃに掻き回していく。 それが気持ちよくてもう腰から下が溶けてしまうんじゃないかって感じだった。 いつの間にかヨシュアの手に爪が食い込むくらい強く握っていて悪いと思ったけれどそれ以外に快楽を受け止める方法が分からなかった。 「あっ!ヨシュアぁ...んっ///」 「ん//...イきそう...ネクくん、どこに出せばいい?」 そう言いながらヨシュアはいつの間にかまた勃起していた俺の陰茎を手で扱いていく。 そんな事まで俺に聞くなっ///!!! 「ねぇ、どうしよう、ネクくん...」 ヨシュアは困ったように何度も俺に聞いてくる。 前回は勝手に腹に出したくせに中出しの許可が欲しいのだろうか。 「あっ,,,もうっどこでも好きなとこに、出せばいいだろっ///」 それが俺の精一杯の答えだった。 それなのにヨシュアは凄い返しをしてくる。 「ネクくんは?ネクくんはどこが好きなの?」 天然なのか計算なのか全く分からない。 もう、俺の負けでいい/// 「中に、出せばいいだろっ///もう、いちいち聞くなぁっ///」 「フフ、ネクくんかわいい」 ヨシュアは少し意地悪そうに笑うと一際激しく中を突きながら俺の陰茎に愛撫を施した。 やっぱり確信犯だ、コイツ/// 「あ、イく!ヨシュアっ///」 「んっネクくんイくよ」 俺がイったのを確認するとヨシュアは俺の最奥まで突き刺してびくびくと体を震わせていた。 「ハァ....」 大きなため息を吐いて繋がったままヨシュアが俺の上に崩れ落ちてくる。 汗でしっとりと濡れた背中をさすってやると嬉しいのかにっこりとヨシュアが微笑んだ。 その笑顔からは切なさは感じられず、幸せ一杯だった。 「もう浮気すんなよ...」 「うん!絶対しないよ!」 お互いハァハァ言いながら暫く幸せの余韻に浸っていた。 言葉よりもセックスで俺の気持ちを確かめるなんて、なんてヨシュアらしいんだろう。 そんなヨシュアに俺はもうすっかり心を奪われていたんだな、と確認までさせられてしまった。 「あ〜〜っ!!!」 「なんだい?!突然どうしたのネク君?!」 狭いバスルームに俺の声が響いていく。 結局また汗だくになったヨシュアは俺と一緒にまた風呂に入りなおしていた。 「カップラーメンにお湯注いだんだった...」 「あ〜あ、仕方ないよネク君。後で僕が何か作ってあげる。」 「お前料理出来るのか?」 「やった事ないけど多分出来るよ。」 「....。」 その根拠は一体どっから来るんだよ! 結局風呂でもう一発ヤって流石に恥かしい所が痛くなった俺はそのままベッドに横になった。 「痛ってぇ...」 「ネク君ごめんね?」 そう言いながらヨシュアは俺に抱きついて首筋に吸い付いてくる。 本当に反省しているのだろうか。 結局大して話もしていないままやりまくってるけどこのままじゃ絶対にいけない。 まだ暫くこの甘い雰囲気に包まれていたいけれど勇気を出して俺から切り出した。 「そう言えば、まだお前の事何も聞いてない」 すると俺にベタベタしていたヨシュアが少しだけ体を離してじっと俺の目を見詰めた。 「話たいけど、話したらネク君に嫌われそうだよ」 「だっ大丈夫だって!俺覚悟出来てるから!」 本当は少しだけ怖いけれど、あんな場面を見ても許した心の広い俺だ、ヨシュアの事なら全て受け入れてみせる。 「絶対だよ?」 そう言ってヨシュアは俺の小指を握って自分の事を話し始めた。 両親が蒸発してしまったヨシュアを羽狛さんが面倒見てくれた事、その羽狛さんと付き合っていた事。 そこまで聞いて羽狛さんに軽くムカついたけれどその気持ちを抑えて続きを聞いた。 「でもね、羽狛さんの店にいた子が急に飛んじゃって店の売り上げが大変だったんだ。羽狛さんクビになりそうで...僕何とかしてあげたくなっちゃってさ。」 「それで始めたのか?あの仕事...」 「うん、最初は嫌がってくれたけどその内羽狛さんには僕が商品にしか見えなくなっちゃったみたいでさ。」 それで辞めたくて鬱になってるヨシュアに羽狛さんがドラッグを薦めて止められなくなった、という訳らしい。 そこまで聞くととうとう本気で羽狛さんに殺意が沸いてくる。 ヨシュアをあんなとこに堕として縛り付けているのはまさに羽狛さんなのだ。 「っ!!許せない!あいつ!」 「うん、でも僕も悪いんだ。隙を見て逃げ出そうと思ったけどやっぱり誘惑に勝てなかった。」 「...仕方ないよ、お前は悪くないって、俺嫌いになんかならないぜ?」 するとヨシュアは嬉しそうに俺にくっ付いてくる。 こんなか弱いヨシュアを何とかしてやりたくて俺もヨシュアをぎゅっと抱きしめた。 「店辞めようぜ?」 「でも...」 「俺が着いていればきっと止められるって、薬...」 ドラッグがどれほど恐ろしいものか分からずに漠然とそんな夢見たいな事を言ってしまったけれど、それ以外に方法なんて俺には分からない。 「うん...頑張ってみるよ。」 それから俺はヨシュアに今日の出来事や彼の事を全て話した。 すると意外にもヨシュアは怒りもせずにラッキーだったね、と言ってくれた。 どうやらヨシュアにとって客から金を貰うのは日常茶飯事のようだった。 「でも、キスしたんだよね?」 「えっ?!...ご、ごめん...」 「いいよ、今回だけは。僕も前例があるからネク君の事責められないし...」 それから二人で話し合って明日一緒に羽狛さんに辞める方向で話を持ちかけようという事になった。 俺はすぐに借金を返してまた普通の生活をしながらヨシュアを更生させていく。 「そういえば...言ってなかったけど、僕羽狛さんと住んでるんだ」 「え?!」 確かに話しの流れからすれば羽狛さんと住んでてもおかしくないけれど、あの悪魔と住んでいるなんてもう俺にとっては気が気じゃない。 「出て行けよっそんなとこ!」 するとヨシュアは困った顔をする。 「でも、他に行くとこないし。」 「俺んちにこればいいだろ?一緒に住もうぜ//」 「いいのかい?」 「いいって!」 正直一緒に住むなんて少し不安もあるけれどヨシュアを監視するには丁度いいし、何よりずっと一緒に居たかった。 話は全て解決してあとは辞める許可を貰うだけだった。 ヨシュアの話ではこういう業界で簡単に辞めさせてくれる事はまず無いそうだ。 逃げたり飛んだりして追われる例も少なくはないらしく、ましてやNO,1なんてあらゆる手を使って縛り付けてくるらしい。 「大丈夫だって、薬も店も絶対にやめようぜ!」 「...うん、そうだね。ネク君ありがとう」 まだ子供で非力な俺達は幸せな夢を見ながら二人で寄り添っていた。 世間の厳しさを何も知らなかった俺はただヨシュアとこれからずっと一緒にいられるという幸福に浸りながら眠りについたのだった。 隣でヨシュアが苦しそうに頭を抱えているのも全く気がつかずに。 目が覚めると隣に愛する恋人の姿は無かった。 「...ヨシュア?」 重い瞼を擦って辺りを見渡すと部屋の隅っこでブランケットを頭から被って体育座りしたまま眠っているヨシュアを発見した。 びっくりして起こそうと思ったけれどあまりに深く眠っているのでそのままにしておく事にした。 そう言えば眠れないって前から言っていたっけ。 薬の副作用なのだろうか。 俺が寝ている間にヨシュアが何かに苦しんでいたのかと思い胸がちくりと痛み、先に眠ってしまった自分に激しく後悔する。 俺は深く溜息をつくとヨシュアを起こさないように二人分の遅すぎる朝食を作った。 出勤の時間は夕方5時。 今日は早めに出勤して上手くいけば働かずにそのまま辞める予定だけれど不安で一杯だった。 部屋の隅にうずくまっているヨシュアを見ていると、もしこのまま風俗から上がってもヨシュアが元に戻る保障はあるんだろうかとまた不安が襲う。 切ない気持ちで青い顔をしたヨシュアの頬にそっと触れると急にヨシュアが目を覚ました。 「っ!!ネクくんっ?!」 ヨシュアは何かに怯えた様に辺りを見回した後ホッとしたように俺の胸にもたれ掛かった。 「どうしたんだ?!」 「ん...怖い夢見たんだ...」 冷や汗を額に浮かべて辛そうに俺にしがみ付くヨシュア。 手は少しだけ震えている。 「頭、痛い」 「だ、大丈夫か?頭痛薬あるぞ?」 しかしヨシュアの症状が頭痛薬なんかじゃ治らない事は俺にも分かっていた。 ヨシュアが大分落ち着いた頃一緒に家を出て店に向かった。 行きのタクシーの中はお互い不安からかずっと黙ったままだった。 俺と違ってヨシュアは羽狛さんとの事も色々とあるのだろう。 店に着くとやたらと早い俺達の出勤に羽狛さんも何かを察したのか二人揃って事務所に通された。 辞める意志を伝えると羽狛さんは苦笑して俺達にコーヒーを入れてくれた。 「まぁ取り敢えずコーヒーでも飲んで落ち着けよ。特にネク、そんな怖い顔すんなって。」 「うるさい!あんたの淹れたコーヒーなんかいらない!」 「えらく嫌われちまったなぁ〜」 「当然だろ!ヨシュアは絶対渡さないからな!」 恋敵の羽狛さんが憎くて堪らなかった俺はとても冷静に話なんか出来なかった。 「辞めたいって言うなら辞めてもいいと俺は思うんだけどよぉ、中間管理職は辛れぇんだよ、立場上すんなり辞めさせる訳にはいかねーんだな。」 ヨシュアはずっと黙ったままコーヒーを飲んでいた。 そんなヨシュアの態度にも次第に腹が立ってくる。 「お前もなんとか言えって!」 そう言ってヨシュアの肩を揺すると急に手にしていたコーヒーカップがヨシュアの手からすり抜けていった。 ガチャンと音を立ててコーヒーカップが床に落ちる。 ヨシュアは気にも留めていないのか黙って床を見詰めていた。 「あーあ、やべぇな。おい、ヨシュア!大丈夫かぁ?」 「ヨシュア?!どーしたんだよ?!」 羽狛さんは呆れた様にヨシュアを揺さぶると急に席を立ってどこかへ行ってしまった。 「ヨシュア?!ヨシュアっ!しっかりしろって!」 「あ、うん...ごめんネクくん...ごめんね...」 ヨシュアは辛そうに頭を抱えると倒れこむ様にソファーに横になった。 昨日一日は確実に薬を取り入れていなかった。 これはその後遺症なんだろうか。 「そいつはもうネタ切らすと使いもんになんねぇよ。」 いつの間にか羽狛さんが戻って来て手には注射器を持っている。 「何すんだよ!!止めろっ!!ヨシュアに触るなぁ!!」 「馬鹿っ違げぇよ、どけ!」 羽狛さんに勢いよく突き飛ばされた俺は床に思い切り倒れこんでしまった。 その間に羽狛さんがヨシュアの腕に注射針を刺している。 「ヨシュア!!っ!!」 するとヨシュアの焦点の合っていない目は次第に閉じていってそのまま眠った様に動かなくなってしまった。 「許せないっ!!」 俺が羽狛さんの腕を掴んで殴りかかろうとするとあっさりその手は捕らえられてしまう。 「落ち着けって、ネク!これは安定剤だ、シャブじゃねぇって。」 羽狛さんは困った様にため息をつく。 「そんなの!信じられるか!ヨシュアをこんな風にしたくせに!!」 しかしヨシュアの顔色は少しだけ良くなって今は本当に静かに眠っている様だった。 「まぁ、聞けって。俺だってなんとかしてやりてぇけどよ...」 再び向かいのソファーに座った羽狛さんは寂しそうな顔で静かに語り始めた。 そんな様子に俺も少し落ち着きを取り戻し、横たわったヨシュアを膝の上で抱きしめながら怖い顔で彼の話を聞いていた。 「あんたがヨシュアを薬漬けにした癖に!今更何だよ!」 「ヨシュアから何を聞いたか知らねぇがきっかけは俺じゃねぇよ」 意外なその言葉に俺は驚愕した。 ヨシュアからは確かに羽狛さんに薦められたと聞いていた筈だった。 「じゃあ何で?!」 「客だ、客。多分あのロン毛のサングラスだよ。」 「あの変態っ?!」 話は意外な展開だった。 あの変態にどうやら無理矢理薬をさせられたヨシュアが急に依存で苦しみだし、見ていられなくなった羽狛さんがその後薬を投与していったという訳らしい。 「こいつを繋ぎ止める為に甘やかす事以外の方法が浮かばなかったんだよ、俺も情けねぇけどな。確かにヨシュアを壊したのはこの俺だ。」 羽狛さんは煙草の紫煙を吐き出しながら苦しそうにヨシュアを見詰めていた。 そんな羽狛さんを見て複雑な心境になったものの、それでも憎しみはやっぱり変わらなかった。 「どうしてっその時に止めさせなかったんだ!ヨシュアが大切じゃなかったのかよ!」 「...。大人は卑怯で臆病なんだよ、ネク。それが例え偽りでも幻想に縋っちまうんだよな、情けねぇ。」 「何だよそれ!意味わかんねぇよ!」 二人の間の事はよく分からないけれど、ヨシュアをこんな風にしてもやっぱり羽狛さんはヨシュアを愛していたのだろうか。 それでもヨシュアは絶対に渡せない、という意味を込めて俺は羽狛さんの前で強くヨシュアを抱きしめた。 「取り敢えずお前達の意志は上に伝えるからちょっと待ってろ。俺も出来るだけ協力してやっからよ。」 そう言って彼は携帯で誰かに俺達の事を伝え始めた。 どこまで信用していいのか分からない彼に俺は何時までも気が抜けず黙ってヨシュアを抱えたまま彼を睨み続けていた。 羽狛さんが電話しながらどこかに行ってからどれだけ経ったのだろう。 「ん...ネクくん?」 「ヨシュア?大丈夫か?!」 ヨシュアは急に目を覚まして辺りを見回している。 「僕いつの間に寝てたの?羽狛さんは?」 ヨシュアは顔色も大分良くなって目つきも普通に戻っていたので少しだけ俺は羽狛さんに感謝した。 「具合はいいのか?」 「うん、なんだかすっきりしたよ。」 気分の良さそうなヨシュアにホッとした俺は急にヨシュアが大切で堪らなくなってきつく腕の中に抱きしめた。 「ん、ネク君?!どうしたの急に//」 「ヨシュアっ!俺が、絶対に守ってやるからっ!」 不思議そうにしているヨシュアを俺はひたすら強く抱きしめた。 俺の力じゃ何も出来ないかもしれないけど絶対にこのか弱い恋人を汚い世界から守ってやる、と強く思った。 「お〜い、振られた直後に目の前でいちゃつかれる元彼の身にもなってみろって!」 するといつの間にか羽狛さんが戻ってきた。 「あ、羽狛さん、僕どうしちゃったの?」 「安定剤打ってやったからしばらく大丈夫だろ、それより今からオーナーがお前達に会いに来るってよ。」 「オーナー?って僕会った事無いよね?」 「ああ、俺だってねぇよ。なんか大事になりそうだなぁ。」 オーナーと呼ばれる人は滅多に現場には顔を出さないらしかった。 二人とも神妙な顔をしていて、それを見ていたら俺も急に不安で一杯になった。 「オーナーって、どんな人なんだ?」 「さぁな、会った事ねぇけどここのオーナーはカタギの金持ちって噂だな。趣味でこんな店やってんだから相当な変わり者なんじゃねぇか?」 何でよりによってそんな人が俺達に会いに来るのだろう。 嫌な妄想が色々と浮かんでは消え、静かな時間が事務所に流れていく。 「オーナーって変態そうだよね。」 沈黙を破ったのはヨシュアだった。 「ああ、絶対ショタコン趣味の変態だって!あの変態グラサンみたいな、」 「フフ、メグミ君みたいな?僕のイメージもそんな感じかな。」 「私がどうかしましたか?」 すると急に事務所の入り口から気持ちの悪い声がした。 振り向くとここに居るはずも無い噂の人物が薄気味悪い笑顔でこっちを向いている。 「うわぁっ!出たぁ!変態!!」 「?!メグミ君?」 「すいませんが営業はまだですよ〜」 三人とも同じような表情を浮かべながら驚いていると、奴は堂々と事務所の中に入って羽狛さんの隣に座った。 「店長、いつもありがとうございます。オーナーの北虹です。」 そう言って変態は羽狛さんに名刺を渡し、続いて俺達にも名刺を渡した。 「メグミ君が、オーナー?!」 「げっマジかよ!!」 その名刺には確かにここのグループ名とオーナーの役職が書かれていた。 「失礼しました、貴方がオーナーでしたか...」 羽狛さんもヨシュアもやっぱり同じような顔をしている。 きっと俺も二人みたいに引き攣った顔をしているんだろう。 自分の店に客のふりしてヨシュアを指名で通うなんてどんな変態オーナーだよ! オーナー像は予想通りすぎて寒気がしてくる。 「さて、聞いた所によるとコンポーザーとそこの君、仕事を辞めたいそうですね。」 変態はサングラスの位置を眉間の所で直しながら薄笑いを浮かべている。 「君は入ったばかりだし仕事が合わなかったと言う事でどうでもいいのですが、貴方はそういう訳にはいきませんねぇ」 元々俺の事を気に入らなかったみたいだしどうやら俺はすんなり辞められそうだ。 問題はヨシュアだ、こいつのヨシュアに対する執着は半端無い。 「罰金だったら払うよ、いくら払えばいいんだい?」 ヨシュアは冷静に金の話に持ち込んでいる。 しゃくだけどここは金で解決するのが一番後腐れなくていいのかもしれない。 「店の規約によると退職が決まってから半年は働いてもらう事になってますが、それが出来ない場合は月給の5倍罰金を支払うと契約しているはずですね。」 「ご、五倍っ?!そんなのめちゃくちゃだろ!」 「君は関係無いので黙っていて下さい。どうですか?払えますか?コンポーザー」 「分かったよ、仕方ないね」 五倍がいくらなのか不明だけどヨシュア、一体いくら稼いだんだろう... 「ああ、ちなみに直ぐに辞める場合は店で預かっている貴方の貯金は一切お返ししませんから」 「え?!何だいそれ?!っ最低だねメグミ君...」 「ちゃんと契約書に書いてあるはずですよ?貴方もサインしたでしょう?」 「卑怯だっ!この変態っ!」 すんなり金で解決とはどうやらさせてくれない空気が漂っている。 ヨシュアは店に強制的に貯金させられているらしいが、こういうからくりになっているのか。 どうやらその貯金が無いとヨシュアは罰金も払えないらしい。 「ヨシュア、一体罰金いくらになるんだよ」 こっそりヨシュアに聞いたつもりが羽狛さんが電卓を持ってやってきた。 「えっとだなぁ、先月の給料で計算して600×5だから三千万円だな。」 「さっ、三千万っ?!」 俺の借金の三倍!!やっぱりこいつらの感覚おかしい!! 「じゃあメグミ君はどうすれば満足なんだい?どうせ何か条件用意してあるんでしょう?」 すると変態は待ってましたとばかりにまたサングラスの位置を直してにやりと笑う。 「そうですね、私は他にも事業をやっていますが最近少年物のアダルトビデオの制作も始めたんですよ。丁度男優を探していたところなんですが。」 それを聞いて再び三人が同じ顔をした。 ヨシュアに至っては引き攣るどころか怒りで下唇を噛み締めている。 「それに出れば辞めてもいいのかい?」 「話が早いですね。一回の撮影に出て頂ければ後はお好きな様に。」 羽狛さんも難しい顔をして黙っている。 ヨシュアがAVなんて俺は気が気じゃなかった。 「駄目だっそんなの!俺が変わりに出る!ヨシュアは駄目だっ!」 「ネクくん、いいんだよ、僕は。」 ヨシュアの腕にしがみ付いて必死で引き止める俺にヨシュアは優しく笑った。 「何を言っているのですか、当然二人の出演が条件ですよ。君はまさかただで辞められると思っていたのですか?」 「なっ?!」 勝ち誇ったように笑う変態に怒りが沸いて思わず俺は立ち上がって胸倉を掴んだ。 しかし羽狛さんによってすんなりその手は振り払われてしまう。 「ネク、止めろ。これでもまだましな方だ。」 「その通りですよ、全く低脳は直ぐに暴力ですね」 一々嫌味な変態に再び殴りたい衝動に駆られる。 「ネク君は勘弁してあげてよ、その代わり僕に何してもいいから」 「っ!!なっ何しても?!し、失礼」 ヨシュアの一言で変態はいきなり鼻血を出してハンカチで拭き始めた。 キモっ!!本当に変態だなこいつ!!4ねばいいのに!! 羽狛さんはこんなのが上司なのかと呆れたように頭を抑えている。 「ヨシュアっそんな条件出すな!俺はお前が酷い目に合うなんて耐えられない!俺が出るって、俺の事好きにしろよ!」 結局俺達はお互い一歩も譲らずに俺が僕がと言い合っていた。 このままじゃ埒があかない。 「実に美しい自己犠牲の愛ですね。それでもさっきの条件は変わらないですよ。ここであと半年働くか一回のAVに出るか、どちらか今日中に決めて下さい。」 すると変態は立ち上がってヨシュアに近付くと、ヨシュアの顎を上に向かせて気持ち悪い笑顔を浮かべた。 「最後に愛し合った時の貴方は最高に可愛かったですよ。貴方の中をまた堪能したいものですコンポーザー」 それを聞いて俺と羽狛さんの目の色が変わった。 まさか二人がそんな関係だったなんて!! ショックも大きかったけどそれ以上に殺意が沸いた。 羽狛さんも知らなかったのか握っている拳が今すぐにでも振り上げられそうだ。 「っ最低だね...」 ヨシュアは吐き捨てる様にそう言って悔しそうに変態を睨みつけている。 変態はヨシュアの耳元で良い返事を待ってますよ、と囁いて事務所のドアを開けた。 「それでは私は仕事がありますので失礼します。興味があるなら脚本を後からFAXしますよ。」 そう言って不気味に笑いながら変態は去っていった。 next