「ネクばいばーい!」 「ネクまた明日な!」 「ああ、またな!シキ、ビイト!」 いつもの日常、学校の友達ともいつの間にかまたつるむようになって俺は当たり前の平凡な日々を送っている。 季節は何度も変わって再び夕方が肌寒くなる季節が巡ってきた頃、 あの時と同じ風が肌を掠めるとまた家のドアの前にヨシュアがうずくまっているんじゃないかなんて考えてしまう。 一人きりの家にいるのはもうとっくに当たり前になってしまい、ヨシュアを忍んで泣いていた頃が懐かしい。 それでも寝る時は相変わらずラパンちゃん柄の枕を抱いて寝ないと眠れなかった。 感覚というものは不思議なもので、感情を強く抱いていた時に感じていた気温や風の匂い、香水の香りなんかはその時の感情をフラッシュバックさせる。 ヨシュアと寄り添っていたあの短い数日間の季節が巡ってきた今、あの時の感情がリアルに蘇ってきて再び切ない気持ちにさせられた。 今頃あいつは何をしているんだろう。 まだあの変態と一緒にいるんだろうか。 体は大丈夫なんだろうか。 俺の為に毎日酷い目に会っていないだろうか。 それとももう俺の事なんてとっくに忘れてしまっているのかもしれない。 感情は穏やかになっていたものの俺は一日たりともヨシュアの事を想わない日は無かった。 夕方でも冷えるので久しぶりにヨシュアがよく包まっていたあのブランケットを出すと、どうにも切なくなってきて何だか家でじっとしていられない。 いたたまれなくなった俺はあいつの面影を追う様に何となくあの頃の夜の繁華街へ赴く事にした。 久しぶりの繁華街は何も変わっておらずあの頃のまま派手に賑わっている。 ドレスの派手なお姉さんやスーツのホスト、酔っ払いのサラリーマンの中で制服を着ている俺はやっぱり浮いていた。 もう二度と来たくもなかったあの店のある雑居ビルの前に来ると看板は違うものに変わっている。 どこかでヨシュアや羽狛さんに会えるんじゃないかと期待していた俺は肩を落として暫くその懐かしいビルを眺めている事にした。 初めてこのビルの前に来てどうしようもなく落ち込んでいた時が今ではネタみたいで笑い事の様だ。 色んな感情を思い出しながら暫くそこに佇んでいると、急に目の前に見慣れない黒いスポーツカーが止まった。 たまに高級車が売っている車屋なんかで見かける黄色に馬のマークの高そうな外車。 思わずそのぴかぴかの車体に見とれているとドアがかっこよく縦に開いて全身黒の長身の男が出てきた。 「あっ!!」 「もしかしてヘクトパスカルか?!何やってんだこんなとこで!!」 それは忘れもしない俺の恩人のあの彼だった。 相変わらず全身ガティートをかっこよく着こなしていて高そうな高級車が良く似合ってる。 「その格好だともう普通の生活してるみたいだな。」 俺の制服姿を見て彼は懐かしそうに微笑んだ。 「あ、あの時はありがとう//俺あんたのお陰で今は普通に生活してるよ。」 あんな事をした仲だ、何となく気恥ずかしくて目を合わせられない。 「いつか必ずあの時の金は返すから!」 「あ?あんな金別にいらねーよ、それよりお前こんなとこうろついてんじゃねぇ!送ってってやるから乗れ!」 彼は強引に俺を車に乗せると今でも覚えているのか正しい俺の家の方角に向かって走り始めた。 車内は外見に劣らず乗り心地抜群で相変わらず彼は儲かっているんだなと実感する。 「お前何であんなとこに居たんだ?まさかまた変な仕事始めるんじゃねぇだろうな!」 「まさか!あれ以来もう仕事はしてない。何となく懐かしくて..」 .「そーか、ゼタ安心したぜ!」 俺達は近況を話し合いながら繁華街をドライブしていた。 車窓を流れていく煌びやかなネオンを見詰めているとヨシュアが初めて俺の家に来るタクシーの中を思い出した。 あの時はときめく胸を抑えながら終始どきどきしていたっけ。 そしてあの夜初めてヨシュアと... この風の匂いや全く変わらないあの時と同じ風景は俺の感情を激しく揺さぶった。 彼に見られないように外を見ながら涙を拭いても微妙に震える声で勘のいい彼には俺の感情なんかお見通しみたいだ。 「あのシャブ中はどーなった?」 少し遠慮がちに彼が詮索する。 俺の様子で大体の想像はついているみたいだ。 「あいつは、もう、一緒に居ないんだ...」 彼との約束もあったので俺は隠さず全てを話した。 俺を庇ってヨシュアが居なくなった事やあの変態サングラスの事。 今となってはもう手がかりも無くどうしようもない事も。 「あ?北虹?...北虹寵?!」 すると変態の名前に急に彼の顔色が変わる。 「知ってるのか?!」 「知ってるも何も俺の店のオーナーだぜ?たまに店に顔出しに来るけどアイツゼタ気にくわねぇ!」 「えっ?!!」 意外な共通点に俺の色褪せていた希望は光を取り戻していく。 あの変態にさえコンタクトが取れればっ!!ヨシュアっ!! 俺はすっかり興奮して彼に根掘り葉掘り変態について聞き込んだ。 もう一度会えるかもしれないというヨシュアへの想いが俺の心の中で少しずつあの頃の様な情熱を取り戻していく。 この人の店に行けば、あの変態に会えるかもしれないな... 「あんたの店、従業員は募集してるのか?!」 「ああ?!急に何言ってやがる!このヘクトパスカル!」 俺とヨシュアとこの人を巡り合わせたこの街は、まるで俺を再び非日常へと手招きしているようだった。 すっかり興奮していた俺は夜ベッドに入っても中々寝付けなかった。 いつも切なく思うヨシュアの枕が今日はなんだか愛しくてヨシュアの代わりみたいに抱きしめてしまう。 ヨシュア、またお前に会えるかもしれないな...! 心の中で馬鹿みたいにヨシュアに見立てた枕に話し掛けている俺、完全に浮かれている。 もしかしたらもう俺の事なんてとっくに忘れられているかもしれない。 それでも俺はどうしてもヨシュアに一目会いたかった。 せめて元気な体で居る事だけでも確認がしたい。 もしかしたら近いうちにそれが叶うかもしれない! あの後猩さんに頼み込んで変態が来そうな日にバイトさせて貰う許可を貰った。 俺がまたアングラな世界に行くことをかなり反対されてしまったけれど俺のヨシュアへの情熱に根負けしたようだ。 風俗を紹介された時なんかニ、三日何も喉を通らないほど落ち込んでいたけれど、猩さんを見ていると少しだけホストがかっこよく見えてしまう。 まあ、俺なんかには到底出来ないだろうけど... ヨシュア、俺お前の為に頑張るよ! ヨシュアへの期待で胸が膨らんで思わずきゅうっと枕を抱きしめた。 もうすっかりヨシュアの匂いなんか無くなってしまったけれど、これは唯一俺にヨシュアを感じさせてくれる宝物だ。 ヨシュアへの気持ちを込めて抱きしめるとあの時から凍っていた情熱が溶けていくにつれて忘れていた甘い感覚も一緒に蘇ってくる。 ヨシュア、ヨシュア... 心の中で何度も名前を呼んでいるうちに自然と右手が下着の中に入っていく。 まだ柔らかい性器をヨシュアを思って触っているとそこはすぐに固さを増していった。 「っ...ヨシュア...」 声に出して呼んでみると体が熱くなってきて、まだ俺の体にはヨシュアの記憶が刻まれているんだなと実感した。 プロだったヨシュアほど上手くは出来ないけれど、ヨシュアの愛撫を思い出しながら触っているとご無沙汰なのも手伝って先走りが染み出てくるのがわかる。 ヨシュアの口の代わりにもう片方の手で濡れた先端を触り、根元を右手で扱いていると徐々に体の芯が甘く痺れてしまう。 「ぁ...ん///...」 足をもう少し大きく開き右手で陰嚢も触っていると、そこは直ぐに張り詰めていって射精したくて根元が固く張っていく。 ヨシュアっ...またお前に触りたいし、触られたいよ...ヨシュア... ヨシュアにして貰っているつもりで一際強く扱いていると、うずうずとした快楽は一箇所に集まってやがて解放されていった。 「あっ///!!」 ティッシュを取りに行くのも冷めてしまう気がして何も考えずに溜まっていた性欲を吐き出した。 咄嗟に手の平で受け止めたものの仰向けで自慰していたので半分くらい顔に飛んでしまった。 どろりとした感触の気持ち悪さに急に我に帰って何だか空しくなってしまう。 冷静になるとこんなに経ってもまだ鮮明に残っているヨシュアのテクニックの感覚に感心すら覚えた。 それとも俺がただ淫乱で未練がましいだけなのか... 自慰するなんて随分久しぶりだったので、なんとも言えない罪悪感に襲われた。 俺、何やってんだろ。こんなに浮かれて、ヨシュアがどんな思いしているかも分からないのに... こんなの不謹慎だよな、ヨシュア、ごめん!! 一仕事終えて体が温まったせいか枕を抱いていたら直ぐに瞼が重くなってきた。 その夜久しぶりに夢の中にヨシュアが出てきて俺達は昔みたいに体を求め合っていた。 でも突然変態が現れてヨシュアを俺から連れ去っていく。 俺が引きとめようとするとヨシュアは振り返ってそっけなく俺にじゃあね、と言った。 とても冷たい眼差し、もう俺なんか眼中に無いって感じ。 変わりに無邪気なヨシュアの笑顔は変態に向けられていた。 メグミ君がいればネク君なんかどーでもいいよ。 そんな一言が聞こえてきて目の前が真っ暗になっていく。 「うぅ...ヨシュあ...ヨシュア!」 自分の声で目を覚ました時は汗びっしょりになっていた。 今日の目覚めは寝汗の気持ち悪さと言い知れない不安で最悪な気分だった。 学校に居ても猩さんからの連絡が気になって常に携帯を触る癖がついていた。 「お前最近やけに携帯開いてんだな。女でも出来たのか?」 「...別に///」 彼女居ない暦15年で未だに童貞のビイトなんかに俺の気持ちが分かってたまるか! 学校の友達は社会にあんな闇があるなんて気が付きもしないまま気楽そうに生活を送っている。 再びアングラな世界に片足を突っ込もうとしている俺にとっては急にこいつらが子供っぽく見えてきた。 「ネク、今日も渋谷行こうよ!」 「ごめん、俺先帰る!」 最近付き合いが悪いだの空気読めだの言われるけれど、そんな事くらいで騒いでいられるお気楽さが羨ましい。 俺は愚痴を言っているシキとビイトを置いて急いで家に駆け込んだ。 「もしもし!今日、本当に行ってもいいのか?!」 そう、ついに今日勝負をかける時がやってきたのだ。 猩さんのメールを見た時から俺の胸は高鳴りっぱなしで緊張からずっと手に汗握ってる。 『あぁ、俺が許可するから大丈夫だ。12時に迎えに行ってやるから寝るんじゃねーぞ!』 そんな事を言われても眠れる訳がない。 初仕事の緊張と、レイプまでされかけた変態への嫌な緊張、ヨシュアの手がかりが掴めるかもしれないという期待。 すっかり穏やかな表の社会に浸かっていた俺にとってこんな重い緊張はかなりこたえる。 当然食事も喉を通らず12時までずっとラパンちゃん枕を抱えて少しでも気持ちを落ち着かせていた。 午前12時、携帯が鳴って彼が迎えに来た事を知らせると、俺は最後にもう一度枕をぎゅっと抱きしめて外へ出て行った。 「今夜多分オーナーが来るって噂だぜ。頑張れよ!仕事は適当でいいからな。」 「よろしくな、俺仕事上手く出来ないかもしれなけど頑張るよ!」 彼の車は大きなエンジン音を立てて再び俺を夜の街へと連れ去った。 「おい、お前ら。今日一日手伝いに来たネクだ!しっかり面倒見とけよ!こいつになんかあったらお前ら殺すからな!」 「こ、殺すって!!よろしくお願いします//」 黒とゴールドで統一されたゴージャスで大人な店に、派手で大人なスーツのイケメン達。 その中で猩さんが用意してくれた高そうなスーツを着た俺は何だか服に着られている感じで浮きまくっている。 すっかり挙動不審になりながらおずおずと頭を下げると、彼の権力の所為なのか全員礼儀正しく俺に頭を下げた。 う、俺なんか内緒だけど未成年の上にとんだ素人なのに...なんか申し訳ないな。 営業前の朝礼らしきものが始まって一人蚊帳の外でぽかんとしていると、オレンジの髪の毛を綺麗にセットしてサングラスをかけた一人のホストが俺の隣に座った。 「ネクチャン初めましテ♪猩チャンから話聞いてるヨ!」 微妙に片言でゆるい感じのそのホストは妙に馴れ馴れしく俺の肩に腕を回した。 「ど、どうも...」 あまり接した事のない人種だし、人見知りの激しい俺はやっぱりどこか挙動不振。 「ヨシュアチャンに会えるといいネ。」 すると予想外の人物からヨシュアという名前が出てきて急に心臓がどきりと跳ねた。 「何で知ってるんだよ?!」 話に食い付く俺を見て彼は飴なんか舐めながら何だか楽しそうだ。 にやにやと笑いながら彼は俺の耳元に顔を近づけると小声で話を始めた。 「俺昔ヨシュアチャンの客だったんダ。あのコのテクは最高だよネ♪彼氏なんでショ?取り戻せるといいネ!」 「〜〜〜っ///?!!」 意外な事実と性的な意味で彼と兄弟だと発覚してしまい俺は言葉を詰まらせたまま恥かしくて俯いた。 「俺猩チャンと同居してるんだけど、あの店に猩チャン紹介したのも俺なんダ。猩チャン君に相当ハマってたみたいだネ!振られて帰って来た時は慰めるの大変だったヨ♪」 しかも猩さんとの関係まで知られてるっ///!!! 恥かしくて穴があったら入りたいくらいだ。 「おい!お前コイツに構うんじゃねーよ!!さっさと仕事しろ、仕事!」 すると猩さんがやって来て俺に密着してたこの人を乱暴に引き剥がした。 「わかったヨ♪なんか今日の猩チャン楽しそうだネ!」 「なっ//!!うるせぇこのヘクトパスカル!!4ね!!」 何だかやりずらいな...あの人にはなるべく関わらないようにしよう。 猩さんから一通り仕事を教えてもらうと彼は忙しそうにそのままどこかへ行ってしまった。 ホスト達は皆携帯をいじって営業的な事をしているようだ。 なんだか肩身が狭く感じていた俺は広い店の隅で申し訳なく座ってそんなホスト達を眺めていた。 暇だったのでそれぞれを観察していると皆かっこいいけれど一際美形ないかにもホストといった様な人と目が合ってしまった。 気まずくなって目を逸らそうとするとその人は上品ににっこり微笑んで俺の方に近付いてくる。 長身で白いスーツに綺麗な金髪、胸元のバラが彼をいっそう華やかに引き立てていた。 「やあ、君初めてなんだってね。何か分からない事があったら何でも僕に聞いてくれよ。」 「あ、はい...」 彼は俺の隣に座ると何故か至近距離で顔を近づけて俺の髪を指先で玩び始めた。 「綺麗な髪だね。」 「あの...///」 何だこの人、妙に慣々しいな... 「僕は王子英治、よろしく。」 「はぁ...」 すると客が入って来て彼はじゃあねと言って俺の手に軽くキスをすると忙しそうに去っていった。 何だあのキザな仕草...王子様気取りか? 客が入って来たせいで更衣室に移動させられるとそこにはリアルなグラフの成績表が掛けられている。 トップはさっきの王子って奴だった。 なるほど、白いスーツは一人だけだったな。 どうやらナンバーワンだけが白いスーツを着ているらしい。 猩さんはというと代表という別枠になっていて他のホストとはまた別格のようだ。 フロアの方からはうっすらと人のざわめきが聞こえてくる。 対称的なこの狭くて静かな更衣室は挙動不審な俺を唯一癒してくれた。 一人きりになると緊張も少し解れ何となく心細くなってくる。 ヨシュア、待ってろよ。俺絶対変態からお前の居場所突き止めるから... 早くお前の顔が見たいな。 そんな風に一人で感傷に浸っていると急に更衣室のドアが開いた。 一瞬音楽とざわめきが大きくなり急に現実に引き戻される。 ドアが閉まると共にまたそこは静まり返りついでにさっきの狩谷と言う人が入ってきた。 「仕事ダヨ。フロアに行って接客して来いっテ。」 「...分かった。」 慣れない事をするのでフロアへ向かう足取りは重くなってしまう。 俺は一時でも安らぎをくれた更衣室にさよならしてドアを開けようとすると、急に行く手を阻むように彼がドアの前に立ちはだかった。 「何だよ、呼びに来といて...」 俺を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら彼はそのまま俺をロッカーに追い詰める。 「ホントにヨシュアチャンの彼氏なの?あのコこんなのがタイプだったんダ」 「なっ!こんなのって何だよ!」 彼は俺を見下しながら細い指先で顔のラインをなぞっていく。 何だか気持ち悪くて逃げようとしたけれど身長差もあるしいつの間にか足の隙間を膝でガードされていて逃げる隙が見つからない。 「ここ、ヨシュアチャンにキモチよくしてもらっタ?」 「っ?!」 急にスーツの上から股間を触られて予想外の行動に身震いする。 何だこの人!何がしたいんだよっ//?! あんな店に通うくらいだ、この人も変態と同じ人種なんだろうか。 しかし彼からは嫉妬の眼差しは感じられずただ俺をからかって楽しんでいるようにも見える。 「感じてるんダ?君も結構カワイイネ。」 さっきから股間の辺りを蠢く手の所為で確かに変な感覚が纏わりついている。 他人に触られるなんてヨシュア以来だ、悪戯程度に触られただけでも俺の意志とは無関係に神経はそこに集中してしまった。 しかも彼は耳元で囁いてそのまま耳穴に舌まで差し込んできた。 「ァ...やめろっ、」 何だか力が抜けていくし、腰もがっちり抑えられてしまって一応抵抗している筈なのに体はいつまでも自由が利かない。 すると更衣室のドアノブが開く音がして再び音楽と楽しそうな歓声が大きくなる。 た、助かった!! 涙目で入り口を見ると今出勤して来たのかまだ私服の3人のホスト達が入って来た。 「狩谷ぁお前何やってんだ?」 バンドでもやっているのかギター片手にパンクっぽい男がこいつに絡んでいる。 しかしそれは決して止める雰囲気では無く、寧ろ悪びれた顔で俺達を見詰めていた。 他の男達は大して興味もないのか淡々と着替え初めている。 「新人いびり♪一緒に混ざル?」 「ハッ、そいつビビってるぞ?」 「離せって!やめっ...ん!?」 一欠けらの希望に縋るように目でその男に助けを訴えたが、それが逆に彼の悪戯心を煽ったのか急に口まで塞がれた。 パンクっぽい男は俺の背後から口を塞ぐともう片方の腕で腰を強く抱く。 必死で叫んでもその声はそいつの手の平に吸収されてしまった。 「んーっ!んぅ!」 「新人いびり楽しいネ♪センパイは立てとくもんだヨ、ネクチャン♪」 必死の抵抗も空しくベルトは外されてズボンと下着ごと無理矢理脱がされてしまった。 他の人達は全く無視といった様子だし、いつの間にか狩谷って奴はチャック下げて一物を取り出して手で扱いてるし、予想外の貞操の危機にさっきまで火照っていた俺の顔は一気に青ざめた。 ほ、本気か?!冗談は顔だけにしろって!! 「おーい、お前ら鍵閉めとけ!」 しかも後ろの奴が余計な事を言い出して何故か他の奴らはあっさりそれに従っている。 ガチャ、と鍵をかける音がして誰かが止めてくれるという選択肢は完全に消えた。 「んーっ!!んん!!」 言葉にならなくてもひたすら止めろと絶叫せざるおえない。 しかしそんな俺を見ても彼はへらへら笑いながら俺の片足を膝が胸に付くくらい高く持ち上げる。 恥かしい穴が晒されて情けなくて泣きたくなった。 「しっかり支えててヨ」 「マジで本番するのか?かわいそーだな!」 全く感情が篭ってない口調で後ろの奴がなんか言ってる。 何だよ!!ヨシュアへの嫉妬か?!悪戯にしてはこんなの笑えないっ!! 「猩チャンを取ったお仕置きダヨ♪ごめんネ〜」 猩さん?!こいつと猩さん一体どんな関係だよ!俺何も悪くない! 彼は自分の性器に唾を垂らして適当に濡らすと全く慣らしていない入り口に無理矢理先端を押し当てた。 「っ!!」 裂けるような痛みが下半身を襲って思わず体に力が入った所為で余計に挿入の痛みが増していく。 瞬間変態にレイプされかけたトラウマがフラッシュバックしてあの時の様な悔しさと涙が込み上げてきたけれど、泣くなんてそれこそこいつ等の思うツボな気がして必死で堪えた。 傷になってしまったのか入り口を擦られる度にしみる様な痛みを感じる。 男を受け入れるのが久しぶりなせいなのかこいつがヨシュアよりも大きいのか分からないけれどセックスでこんな痛い思いしたのは初めてだ。 「ん〜入んないネ。」 するとこいつは何故か俺の片足を下ろすと自分の物をズボンにしまい込んだ。 「ま、いっか。許しテあげるヨ!」 え?!何だ?!た、助かった?? 「ヤッパリ男はちゃんと前戯しないト無理だネ。萎えタ。」 「何だ、つまんねぇ」 要するに俺も痛いけど向こうも痛くて萎えたって訳か... 後ろのパンク野郎は特に男に興味無いみたいだし解放の兆しは目前、と丁度俺が安堵しかけた時、急に下半身から強い刺激を感じた。 「んっ!...」 「折角だかラ気持ちよくさせてあげるヨ♪」 未だに曝け出された俺の性器を何を思ったかこいつは手で扱きだした。 陵辱までは及ばないもののこれだって十分屈辱的だ。 さっきの苦痛とレイプのショックで萎えまくっていた俺のペニスに唾を吐きかけられてひたすら上下に強く擦られる。 それは愛撫というものではなくただ俺を辱める為の軽い苛めみたいなものだった。 「新人歓迎会ってコトで一つイっちゃってヨ。」 「ん〜!!んぅ!」 テクニックも何も感じさせないただ乱暴なだけの刺激でもやっぱり同じ男なだけあって性感帯を理解している。 根元の方を力強く触られて唾液で濡れた先端を親指で撫でられた瞬間、甘い痺れが下半身を支配して足の力が抜けて立って居られなくなった。 こんな奴らの前でイくなんて屈辱にも程があるけれど生理現象には逆らえない。 迫り来る絶頂に抗う様に下唇を噛み締めて痛みで紛らわそうとしたけれど、久しぶりの他人の手による快感には勝てなかった。 「んんっ///!!」 あっけなく射精してしまった俺のペニスをこいつはわざと俺の顔にかかる様に真上に向ける。 勢い良く飛んだ精液は狙い通り俺の顔をどろどろにしていった。 「お疲レ!顔拭いたラさっさと仕事行ってネ」 「うわ、こいつマジで男の手でイったぜ!ハッ変態だな!」 勝手にこんな事した癖に何で馬鹿にされなきゃならないんだよっ... 狩谷って奴におしぼりを渡されて俺は悔し涙を堪えながら黙って顔を拭いた。 手が怒りで震えて何度もおしぼりを落してしまう。 「ま、新人いびりでよくある事だ。これをバネに頑張れよ。」 ずっと煙草を吸いながら傍観していた奴が俺の肩をぽんぽん叩きながら更衣室を出て行った。 他の奴らも仕事に向かい誰も居なくなったのを確認した瞬間、張り詰めていた糸が切れた様に俺の目から悔し涙がこぼれた。 その時封印されていた変態に対しての屈辱感や怒りが呼び覚まされて、改めて弱いものをいたぶる心無い男達に腹が立った。 俺の元を去ってからヨシュアは何度もこんな思いをさせられているのかもしれない。 それなのに俺は自分ばかり傷ついていると思い込んで切ないだとか寂しいだとかそんな感傷に浸ってばかりいたっけ。 俺が当たり前の様に過ごしている表社会での生活は、ヨシュアのこんな思いの犠牲の上に成り立っているんじゃないだろうか。 ありがとう、狩谷って奴とあのパンク野郎。 お陰で変態に会う前に俺は大事な気持ちを思い出すことが出来た。 いつの間にか寂しい気持ちの方が大きくなっていて変態への憎しみが薄れていってたんだ。 ヨシュア、俺こんな事くらいで泣いてなんか居られないな。 お前の為に頑張るよ、もうお前がこんな思いしなくて済むように。 涙を拭いて鏡の前でいつもの顔を作ると俺は煌びやかなフロアへ出て行った。 この先また変態にどんな目に合わされても俺はヨシュアに会うまではめげないと固く心に誓った。 next