「んっ...今夜はっ...雨なんだね...」
「ハァハァ...こ、コンポーザーっ」
メグミ君が僕の体を揺する所為でテレビの文字が良く読めない。
天気予報が終わって折角僕好みの猟奇的殺人のニュースなのに集中出来ないよ。
あーもう、早く終わらないかな。
メグミ君は力の抜けた僕の体を本能のままに貪っている。
感じもしない乳首に吸い付きながら僕の中に突っ込んだ性器を容赦なく突き上げて来た。
「へぇ、この犯人っ...まだ、未成年だってっ...フフっ僕と同じくらいかな」
テレビを見ながら完全マグロになっている僕にもメグミ君は興奮するようでハァハァ言いながら僕に跨って腰を振り続けている。
いい加減飽きないのかな、もう面倒くさいよ。
ここへ来たばかりの頃は毎日レイプ三昧の地獄の様な日々で、歯を食いしばりながら陵辱に耐え続けていたっけ。
いつの間にか抵抗や罵声すら馬鹿馬鹿しくなってプライドを放棄した頃、僕の体は性感というものを完全に遮断していった。
触られても自慰してみても全く立たない僕のペニスを彼は相変わらず愛しそうに愛撫する。
あーもうその息使いが、汗が、声が、気持ち悪い!
僕の口をついて出るのは突かれた衝撃で自然と出てくる声と吐息だけ。
それを未だに喘ぎ声と勘違いしているのか、幻影でも見ているのか彼は僕の声を可愛い可愛いと連発する。
あぁもうイライラする、今日はいつに無く長いんだね。
「ハァっ、コンポーザー!今日は仕事でまもなく家を空けなければならないのですっ!貴方と眠れないなんて残念です...」
「ふーん...お仕事、頑張ってね」
適当に返事してやったのが嬉しかったのか彼はいっそう激しく腰を打ち付けてきた。
「っ!!...ンっ...」
彼に捕まって衝撃をやり過ごすなんてまっぴらだったので仕方なくシーツを掴んで衝撃を堪えた。
「あああっ!!こ、コンポーザー!」
急に彼の動きが止まってびくびくと震えながら僕の上に覆いかぶさってくる。
彼の汗が僕の肌に張り付いて気持ち悪くて軽い吐き気がした。
ニュースは丁度未成年の少年が年上の恋人を殺したという内容を説明している。
自分にリンクさせながら見ていたらメグミ君が僕の恋人という設定になってしまいますます吐き気が増した。
僕の恋人はきっともう僕の事を忘れているだろう。
汚い世界にいた時の事なんか思い出したくもないに違いない。
あん.な所で出逢った僕とセックスしてた事なんて今のネク君にとっては汚点みたいなものだろうか。
むしろそうであって欲しい、そう思いたくなるような普通のどこにでもいる15歳の生活をネク君に送っていて欲しかった。
制服を着て学校に行ってクラスメイトと女の子の話なんかしている普通の少年のネク君を想像するだけで、どんな目に合っても心が安らいでいく。
自分が酷い目に合っている意味も、生きる理由もそんな彼の為なのだから。
「それではコンポーザー、行って参ります。良い夢を。」
彼は着衣を整えると名残惜しそうに僕の足に頬擦りする。
ざりざりとした剃り残しの髭の感触が気持ち悪い。
「早く行ったら」
冷たくそう言うと彼は僕の足にキスをして良い夢をとか何とか言いながら出かけて行った。
部屋はしんと静まり返りやっと一人きりのパラダイスが訪れたと言うのに、やたら煩い配色のこの部屋に居るとあまり落ち着かない。
彼の趣味なのか僕に与えられた部屋はやたら少女趣味な家具とピンク色で統一されていた。
服は毎日女物のワンピースや下らないコスプレが用意されていた。
当然それを無視して僕は持ってきた愛用の服しか着ないけれど、厄介な事にセックスする時は無理矢理着替えさせられている。
最初の頃は半狂乱になって暴れていたけれど、この一年毎日精神科の医者が診察に来ていたお陰で体からはすっかり薬が抜けて今ではそんな変態な要求にも冷静に対応する事が出来るようになっていた。
ただプライドを捨てた、と言えばそれまでなんだけど。
メグミ君がこの家に僕を一人きりにする事は珍しい。
この隙に逃げ出そうと思えば簡単なものだけど、未だにネク君を気にかけて僕はここを出る事が出来ない。
彼が居ないこんな時間は僕の唯一の安らぎで、とっくに解約されている携帯に保存されているネク君の画像を見ながら思い出に浸ったりしている。
一人きりの僕にも思い出はいつも優しかった。
窓から吹き込んでくる冷たく柔らかい風。
そういえば丁度こんな風の吹く季節にネク君と出逢ったんだっけ。
暫くその懐かしい風に当たっていたら、あの時悲しくて張り裂けそうな胸を押さえながらネク君ちの前でずっと待っていたあの頃の僕が今の自分にシンクロしていく。
ああ、季節ってこんなにリアルに感情を再現してくれるんだな、なんて思って切なくてたまらなくなった。
ここに来てからは毎日悔しさとか怒りの感情を抱いていたけれど、こんな甘く切ない気持ちになった事はあまり無いかもしれない。
ネク君が幸せになる為なら、と割り切っていた所為か寂しさを覚えるのは珍しかった。
ネク君、今頃何してるの?
切なくて、でもどこか心強いようなこんな気持ちを今更どう処理したらいいのだろう。
相変わらず風が僕の肌を優しく掠めていくから、どんどんあの頃の感情が蘇ってきて堪らず窓を閉めた。
今夜は変態も居ない事だし久しぶりに一人きりで眠れるよ。
こんな気持ちを抱いたまま眠ったら悲しい夢を見てしまいそうだけれど、夢の中でも君に会えるならそれもいいかもね。
ネク君、お休み。
愛用のラパンちゃんのぬいぐるみに心の中でそう話しかける僕、何だか乙女みたいで気持ち悪いけど今夜だけはいいよね。






「おい、ヘクトパスカル!遅かったな。」
酷い目に合っていた所為で中々フロアに出てこなかった俺を猩さんが怪訝な顔をして迎える。
告げ口なんてそれこそ惨めなので適当な言い訳をして遅れた理由を誤魔化した。
「ごめん、ちょっと具合が悪かったんだ。でももう大丈夫だ...」
暗い顔した俺を見て彼はその言い訳を真に受けたらしく真剣に心配してくれた。
具合が悪いのはあながち嘘でもないけどな。
「あそこの席接客して来てくれ、無理すんじゃねぇぞ!」
「ああ、分かった...」
猩さんに言われた席にはピンク色の髪の毛でショートカットの女の人が座っていた。
こんな暗い顔をしてたらホストなんて失格だ、所詮一晩だけのバイトと言っても猩さんの顔を潰すわけにはいかない。
さっきの屈辱は一端心の隅に置いて俺は緊張しながら彼女の元へ行った。
「は、初めまして、桜庭ネクです...よろしくお願いします..」
すると彼女はにこりとも笑わずに観察するように俺を見詰める。
「ねぇ狩谷はぁ?あんた何かつまんなそう。新人?」
いきなり第一声がその名前かよ!!
どうやらこの人はあの最低変態野郎の客らしい。
あんなやつ指名するなんて趣味悪いな...
という事は俺はあいつの代わりにここにいるのか、たしかヘルプって言うやつだ。
この人を怒らせて帰らせればあいつは困るだろうか。
些細な復讐が俺の頭を過ぎったけれどそんな事をしたらやっぱり惨めなのでちゃんと仕事に専念する事にした。
しかしあいつの客のせいかこの人も俺の苦手なタイプだ、どうも好きになれそうにない。
「今日入ったばっかりですけど」
元々表情豊かな方ではないけれど、苦手だと思ったら特に表情が固まってしまう。
営業スマイルなんて出来るはずも無くやっぱりホストなんて向いてないと思った。
「あんた感じわるー!つまんない!これイッキしな!」
少し酔っているのか彼女は俺の肩に腕を回してタチの悪い絡み方をしてくる。
目の前にはロックグラスになみなみと注がれたブランデーが入っていた。
「お、俺お酒はちょっと...」
未成年で酒なんて殆ど飲んだ事も無く、ましてやこの後はあの変態に向けての作戦がある。
こんな所で潰れてしまったら身も蓋もない。
「あー?!飲みなさいよっ!仕事でしょ?!」
「うっ...っ?!」
すると俺の態度に逆上した彼女は俺の口に当てたグラスを一気に傾けた。
一口で許されるはずも無くグラスの角度は上がる一方。
借り物のスーツを汚すわけにもいかないので仕方なくそれを飲み込む羽目になってしまった。
口の中に濃度の高いアルコールが入ってきて、喉が焼けるように熱くなる。
体内までどんどん熱くなっていって液体の通り道が分かるほどだ。
「うっ...おえっ...」
「まぁまぁね、あんた結構やるじゃん。」
彼女はそれで満足したのか取り合えず機嫌は直ったみたいだ。
「み、水っ!」
余りに口の中が気持ち悪いので空いたグラスに手を伸ばすと彼女はそこに更に酒を注いだ。
「はい、水!」
「えっ...もう、無理っ...っ!!」
そしてまた同じ事が繰り返される。
段々顔が火照ってくる感じがして視界がふわふわと回り始めた。
普通は水で割るような酒を薄めずにイッキしたんだ、当然効き目は速攻だった。
「きゃははっ!あんたおもしろ〜い!」
彼女は上機嫌だけれど俺はもう普通に座ることも出来なくなっていた。
「コラ、卯月!何ヤッテんの?新人苛めちゃ駄目でショ?」
耳障りな声がしたと思ったらどうやらあいつが戻ってきたようだ。
彼はソファーに突っ伏している俺を起こすと目の前にグラスを付きつけた。
「ホラ、お水飲んだラ?」
未遂だけどさっきはレイプしたくせに今更先輩面かよ!新人苛めた張本人の癖に!
そんな意を込めて思いっきり睨んだけれど酔っているせいで上手く表情が作れない。
いつまでも水を受け取らないでいるとまたしても無理矢理グラスを傾けられた。
少し警戒していたけれどそれは純粋な水のようだ。
「もう行ってイイヨ、ネクチャンありがと♪頑張ってネ」
水を飲んで少しだけ生き返った俺はさっさとその気分の悪い席から立ち去った。
すると真っ赤な顔をしてふらふらになっていた俺を見て直ぐに猩さんが駆けつけて来た。
ぐらぐらした視界の中で差し伸べられた手を取った辺りから俺の意識はぶっ飛んだ。


いつの間にかさっきの更衣室に連れてこられていたらしく無機質な天井が見える。
「大丈夫か?ヘクトパスカル!」
彼が心配そうに俺の顔を覗きこんでいる。
そういえばさっきからなんか暖かいと思ったらどうやら彼に上半身だけ抱きかかえられているらしい。
「ん...だいじょぉぶ...」
上手く呂律が回らなくて舌っ足らずな声が口から漏れる。
すると何を思ったか彼は俺の体をぎゅっと抱きしめた。
「え...?」
ぐらつく視界で必死に彼の表情を分析してみると、彼は顔を赤くしてしかめっ面をしていた。
「あ、あんまり心配かけんな//!!このヘクトパスカル!!」
何だかこの人の腕の中は懐かしくて安心する。
「ありがとぉ...」
色々と世話になったのに俺未だになにも返せてない。
ありがとう、ごめん、ごめん。
多分そんな心の声が口に出ているみたいで彼はますます仏頂面になった。
そういえばこの人は照れくさい時はいつもこんな顔になるんだったっけ。
ぼーっとその顔を見詰めていると段々彼の真剣な顔がアップになっていく。
鼻先が引っ付いたと思ったら唇に柔らかくてあったかいものが触れた。
ああ、今キスされてる、久しぶりだな...
酔っている所為で半分訳が分からなくなっていた俺はまるで人形のようにされるがままになっていた。



「ァ...ん...」
頭はふわふわしてるし下半身は気持ちいいし、なんだか深い水の中でも漂っているみたいだ。
現にさっきからぴちゃぴちゃと水の音がしているし。
気持ちいいし、あったかい。
長いことしてないけどそういえばセックスってこんなんだったよな...懐かしいけど、少し切ない。
「あ...ン、や...」
セックスってこんな感じ...てゆーかこれ、セックスしてないか俺?!
揺さぶられる感覚が激しくなってきた頃、その振動で脳が正気を取り戻していった。
何でか今俺猩さんと合体中。 
何で、なんでだ?!
酒って怖い、流れが全然思い出せない。
パニック気味な俺に彼は荒々しいキスをしながら下から激しく突き上げる。
椅子に座った彼に向かい合わせで股がる格好で、彼の首にしがみついてる俺。
安っぽいパイプ椅子は二人が揺れる度にカタカタと音を立てる。
思い出せ、俺!
キスされた事までは覚えてるんだ、その後何か会話、会話したはず...


『なぁ、もしあいつがもうお前の事忘れてたらどーすんだ?』


そんなの寂しい...いやだよ、ヨシュア... 


『なんか今お前をあいつんとこに行かせたら、本当にもう二度と会えねぇ気がする』


本当はあの時二度とお前に会わねぇ覚悟したのにな、と苦しそうに彼が言った。

それもいやだ、俺あんたに会えなくなるのもいやだ!


『なっ//そ、そんなに抱き着くなっ//犯すぞっ!』


あんたもずっと傍にいてくれなきゃいやだ、ヨシュアも、なんで大切な奴は俺のところから居なくなるんだよっ


『おい、離れろって//本当にヤるぞ!泣きわめいても止めねぇぞ!』





俺の気持ちどこまで声に出てたんだろう。
たしかあんなやり取りをしながらひたすら彼にしがみついていたような...
とにかくキスされたり触られたりされるのが気持ち良くて訳分かんなくなってたんだ。
「ハァ...ネクっ...」
限界が近いのか全力で腰を打ち付ける彼。
強く抱き着かないとずり落ちてしまいそうだったので回している腕に力を入れると、彼はそれを俺の好意だと思ったのか何度も名前を呼びながらきつく抱き締め返してくる。
「んっ...あっ!やめっ...」
こんなのなんか間違ってる、駄目だ、俺ヨシュアの為にここへ来たのにっ...
それでもヨシュアに開発された感度は未だに健在みたいで、アルコールが更にそれに拍車をかけているのか中を突かれる度に痺れるような甘い感覚が生まれた。
「だめっ...だって...あっ...よし...や...っ」
この感覚は一人じゃ生み出せない、二人でしてないとこんなに体の中は熱くならない、それを与えてくれるのはいつもヨシュアだったはず。
でも今は違う、どうしてお前じゃ無いんだよ。
これはレイプなんかじゃない、酔っていたとは言えちゃんと俺の意志は働いていた。
俺はこれを望んでいたのかな、本当はヨシュアがまだ俺の事好きとも限らないし不安で寂しくて怖くて...
優しい彼に甘えたくて慰めて欲しかったのかもしれない。
「あっ...だ、め...んぁ!」
色んな考えや感情は俺の絶頂が近付くにつれて薄れていく。
彼のもので一杯になったお腹の中が甘く疼いて、その疼きはすぐに全身を駆け巡っていった。
酒で恥らいが吹っ飛んでいるのか俺は何の躊躇いも無く気がつけば本能のまま自分の性器を触っていた。
「んっ...もうっ、おれ...イく...」
「うっ...ネクっ!」
すると彼も限界だったのか切ない表情で俺を見詰めると、急に動きを止めてきつく俺の体を抱きしめた。
彼は体を数回震わせて、俺のお腹の中を精液で満たしていく。
「あっ...んんっ!!」
そんな感覚が気持ちよくてすぐに俺もイってしまったけど、何だか虚しさで一杯だった。
彼が性器を引き抜くととろとろと白っぽい液体が俺の中から溢れてくる。
「わ、悪ぃ///ちょっと待ってろ!拭いてやるから///」
体は満たされても、俺の心には隙間風が吹いていた。


「体、大丈夫か//?気分悪くないか?」
「....。」
運動したお陰でアルコールは少し抜けたものの体はまだ火照っていて頭もすっきりしない。
きっと今素面だったら激しい自己嫌悪に陥ってしまうだろう。
もうしばらくこんな状態が続いてくれるといいな。
「....悪かった、そんなに落ち込むなよ。」
ずっと黙ったままの俺の態度を見て、彼の方が何倍も傷ついているような顔をする。
酔ってたとは言え抱かれなからヨシュアの名前を連呼してたんだ、悪い事した、本当俺最低だな。
「酔ってるお前につけ込む様なマネして悪かったって...忘れてくれっていうのは虫が良すぎるかもしんねーけど、」
「....。」
正気だったら果たして俺は抵抗していたんだろうか、上手く言えないけど俺にとってこの人も大切で大好きな人なんだ。
恋に限りなく近い愛情のような、そんな感じ。
ヨシュアに出会わなければきっともっと早くこうなってた。
後悔は...してない、さっきからずっと胸の奥がずきずきと痛いけれど...
こんなんでもちょっとは恩を返せたかな、こんな返し方しか出来なくて、やっぱりごめん...
「いいんだ、俺別に後悔してないから」
やっとの思いで声を絞り出すと、彼は俺の前にやって来て頭を優しく抱きしめた。
「後悔してないなら泣くなよ、このヘクトパスカル。」
言われるまで気が付かなかったけど俺泣いてたんだな。
きっとそれは大切なあんたがあんまりにも辛そうな顔する所為だ。
俺達は暫く黙ったままそうしていた。
彼はちゃんと俺の気持ちを分かっててだから辛そうな顔をしていて、俺はそんな彼に少しだけ甘えた。
泣いている俺の頭を撫でる手は相変わらずあったかくて懐かしくて、やっぱり優しかった。




「オーイ、猩チャン開けて!」
ドンドンと更衣室のドアを叩く音と共に耳障りなあいつの声がした。
いつの間にか猩さんが鍵をかけていたらしい。
「ったく、うるせーなぁ!」
彼は舌打ちしながらその煩い声のする方へ行く。
開いたドアからはあの狩谷って奴が入ってきて怪訝な顔をしながら暫く俺達を交互に見ていた。
「なんかアヤシイね〜何ヤッてたの?猩チャン。」
「ああ?べ、別に何でもねぇよ///!!」
猩さん顔真っ赤だ、それ絶対バレるって!
つられて俺まで顔が熱くなっていく。
「フーン、まぁそれは後から色々聞かせテ貰うとして、オーナー来たカラ知らせに来たヨ!」
「っ!!変態が来たのかっ?!!」
オーナーという言葉に俺の体は素早く反応してドア付近に居た二人を押しのけて急いでフロアへ飛び出した。
そこにはビップルームに入ろうとしている紛れもないあいつの姿があった。
「っ!俺、行ってくる!!」
興奮して我を忘れている俺を猩さんが慌てて止める。
「待てって!このヘクトパスカル!!取り合えず落ち着け!焦って行っても返り討ちに遭うだけだろーが!」
彼に叱咤されて少しだけ興奮した頭が冷静になる。
まだ酔いが残っている所為でどうもさっきから感情の起伏が激しい。
「そうだな、ありがとう」
俺は一呼吸置いてから心配そうな彼に大丈夫だからと微笑んでみせた。
不安で一杯だけれどあんたが優しさをくれたお陰で頑張れそうだ。
俺きっとヨシュアを取り戻して今度こそあんたとの約束守るよ。
「俺、行って来る。」
「なんかあったらすぐ呼べよ!」
緊張しながらビップルームと呼ばれるカーテンで囲まれた席に行くと数人のホスト達が既に接客している。
相変わらずサングラスが嫌味なほど似合ってる。
「失礼します...」
俺が入るなりホスト達と戯れていた変態は急に顔色を変えた。
「君は、たしかコンポーザーの...懐かしいですね。」
変態はソファーから立ち上がり俺の元へやってくると相変わらず舐めるように俺の全身をじろじろ見る。
「フフ...申し訳ありませんが彼と二人きりにして貰えますか?」
変態は他のホスト達を撒くと、どうぞと言って俺を隣へ誘った。
嫌な顔されるか突き放されると思っていた俺は予想外の変態の対応に戸惑わずにはいられなかった。


「どうして貴方がこんな所にいるのですか?また借金でも出来ましたか?」
変態はやたら近い距離で俺に密着しながら話かけてくる。
手は何故か俺の太ももの上に置かれていた。
う、近っ!キモいんだよ、この変態!
思わず距離を取りたくなってしまうけどぐっと堪えた。
「今日だけ、手伝いで...あんたに会えると思って」
こいつに気に入られればヨシュアに会えるかもしれない、せめて手がかりだけでも掴めたら。
俺の作戦は心外だけど変態に取り入って家に上げて貰う事だった。
「それは興味深いですね、コンポーザーが気になるのですか?」
変態はぐっと顔を寄せて至近距離で見詰めてくる。
息が顔に掛かって大変気持ち悪い。
「ヨシュアの事は、もう忘れた。もう大分経つしな。それよりも俺、あんたとの事が忘れられなくて...」
心にも無い事を口に出した所為で自分の顔がどんどん引き攣っていくのが分かる。
ああ、こんな作戦やっぱりバレバレかもな、俺器用に嘘なんかつけない。
「それはセックスの続きの事ですか?フフ...」
変態は指先でサングラスの位置を直すと意味ありげに微笑する。
変態と言っても仮にも何店舗も店を経営するオーナーだ、恐らく頭もいいに違いない。
俺の心理などお見通しなのだろうか。
それでも俺は一応首を縦に振った。
あらゆる覚悟は一応出来ているつもりだったから。
「相変わらず頭の方は悪そうですがその勇気は買いましょう、最近のコンポーザーは感情を閉ざしてしまわれているので貴方の存在は丁度いいかもしれませんね、フフ...」
「ヨシュア?!ヨシュアがどうしたんだよ?!!」
まさかヨシュアの話まで聞けるなんて思っていなかったので、その名前ですっかり興奮した俺は気付いたら作戦なんか忘れて変態に詰め寄っていた。
「やはりあの方が目的ですか、私に取り入ろうなんて安っぽい作戦ですね。」
しまった、やっぱり見抜かれてる!...当然だな、俺やっぱり嘘付く才能無い。
「フフ、いいですよ。今から私の家に一緒に来て下さい。コンポーザーにも会わせてあげましょう。ただし...」
「本当か?!ヨシュアに、会えるのかっ?!」
レイプ三昧の果てにあわよくば手がかりでも掴めたら儲けものくらいに考えていたので何だかあっけなく上手く行き過ぎて逆に怖いくらいだ。
今だけは変態が少しだけいい人に見えてくる。
「はい、約束しましょう。ただし、さっきの言葉には責任を取って貰いますよ。」
さっきの言葉って...あのレイプの続きをさせろって事か?
俺の犠牲なんて元より覚悟の上だ、ヨシュアに会えるなら仕方ない。
すると変態は少しだけ息を荒げて俺の太ももに置いていた手を少しずつ上に移動させていく。
「っ...!」
その手は俺の股間に到達するとやたら滑らかな手付きで大事な場所を触ってくる。
っ///!!この変態っ!!!
俺の耳元に顔が接近していると思ったら急に耳の中を舐められた。
「うっ...」
止めろと喉まで出掛かった声を必死で飲み込んだ。
まさか今ここでする気じゃないよな?!勘弁してくれ!
今にも押し倒されそうな雰囲気に俺は脳をフル回転させて回避する方法を探した。
「あ、あの...風呂、入ってからが...いいんだけど...」
必死で考えた結果がこんな乙女みたいな台詞だなんて我ながら情けない。
「フフ、あんな店で働いていた割には案外純情なんですね。その路線も嫌いではないですよ。」
すると変態は俺から離れると颯爽と立ち上がって何が入っているのか謎なアタッシュケースを持った。
「では行きましょうか。」
意気揚々と店を出る変態に俺は慌てて着いて行った。
すると猩さんが怖い顔して俺の行く手を阻んでくる。
「おい!どこ行くんだよ!本当に大丈夫なんだろーな!」
「俺ヨシュアに会う為にここに来たんだ、頑張るよ。ありがとう、その、色々...///」
引き止めたそうな猩さんを振り切って俺は店を出た。
「何かあったらすぐ連絡しろよ!分かったか!このヘクトパスカル!」
別れ際にそう言ってくれた彼に俺は取り繕った笑顔で手を振った。
彼に対しての罪悪感で胸がちくちくと痛い。
彼との別れ際はなんだかいつも切ない。
いつかお互い晴れた笑顔でまた今度って言い合える日が来たらいいのに...
変態の真っ黒でやたら大きな車に乗り込んで、窓から遠くなっていく猩さんを見詰めながらそんな事を考えていた。


車の中で変態にずっとヨシュアとの情事の内容を問い詰められてうんざりしていた頃、車はやたら高級な高層マンションの前で静かに止まった。
変態に付いて車を降りるとマンションの煌びやかなエントランスを通ってエレベーターに乗った。
階を表示する数字はどんどん上がっていって俺の期待もそれに伴うように高まっていく。
数字は最上階を表示してエレベータが開いた。
こんな高そうなマンションの最上階に住むなんてやっぱりこいつは半端無い金持ちらしい。
当然その階には一部屋しかなくそこにヨシュアが住んでいると思うと、まるで塔の天辺に幽閉されているお姫様だな、なんて思ってしまう。
現実は幽閉なんかじゃなくてもしかしたら二人の愛の巣になっているのかもしれないけど...
あの忌まわしい夢が蘇る。
まさかそんなはずない、とネガティブになりかけた自分に慌てて言い聞かせた。
「どうぞ。お入り下さい。」
変態が扉を開けて俺を誘導する。
だだっ広い玄関には大きな靴と見覚えのある白いラバーソールが並んでいた。
ああ、本当にヨシュアがここに居るんだ。
懐かしくて胸が一杯になってきて込み上げる涙を堪えた。
たとえどんな目にあっても、ヨシュアが迷惑しても、きっと俺は後悔しない。








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